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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)7102号 判決 1992年12月24日

兵庫県伊丹市西野七丁目九一番地

原告

大誠産業株式会社

右代表者代表取締役

植村肇

右訴訟代理人弁護士

小谷寛子

小谷英男

大阪府守口市南寺方東通五丁目八八番地の二

被告

鈴木精機株式会社

右代表者代表取締役

鈴木允

右訴訟代理人弁護士

梅田章二

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金九六三八万一八七五円及びこれに対する昭和六二年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  当事者

原告(旧商号・新大蔵エンヂニヤリング株式会社)は、昭和五七年一〇月六日に設立された、食料品加工機械の製造及び販売を主たる業務とする株式会社であり(原告代表者、弁論の全趣旨)、被告は米飯食品加工機械の製造販売を主たる業務とする株式会社である(争いがない)。

二  特許権及び実用新案権(証拠を付記した点以外は争いがない)

原告代表取締役植村肇(以下「植村」という。)は、昭和五七年一二月頃、次の1、2の発明及び3の考案(以下1の発明を「本件発明一」、2の発明を「本件発明二」、3の考案を「本件考案」、右三件の発明及び考案をまとめて「本件発明・考案」という。)をし、その頃、本件発明・考案について特許ないし実用新案登録を受ける権利(以下「本件特許・実用新案登録を受ける権利」という。)を原告に譲渡し、原告は、本件発明・考案について次のとおり特許ないし実用新案登録出願をした。本件発明・考案についての各出願については、次のとおり、出願公開(甲五~七)、出願公告を経て、特許権ないし実用新案権の設定登録がされた(本件考案の実用新案権設定登録の事実は甲三一)。その間、昭和六〇年六月七日に、弁理士丸山敏之他二名は、原告及び鈴木允(以下「鈴木」という。)の代理人として、本件発明・考案について、特許ないし実用新案登録を受ける権利の一部を鈴木に譲渡したことに相違ない旨の記載がある原告代表取締役植村作成名義の譲渡証書及び委任状並びに鈴木作成の委任状を添付して、原告を共有承諾者、鈴木を共有加入者とする出願人名義変更届を特許庁長官に提出して、特許法三四条四項、実用新案法九条二項所定の特許ないし実用新案登録を受ける権利の承継の届出をした。

1  発明の名称 稲荷寿司の揚げ皮搬送装置

出願日 昭和五八年五月一六日(特願昭五八-八五六一七号)

出願公開日 昭和五九年一一月二九日(特開昭五九-二一〇八五八号)

出願公告日 昭和六一年八月二一日(特公昭六一-三六八九三号)

設定登録日 昭和六二年七月二三日

登録番号 特許第一三八九八九二号

特許請求の範囲 添付の特公昭六一-三六八九三号特許公報の該当欄記載のとおり

2  発明の名称 飯の自動供給装置

出願日 昭和五八年五月一六日(特願昭五八-八五六一九号)

出願公開日 昭和五九年一一月二九日(特開昭五九-二一〇八六〇号)

出願公告日 昭和六三年一〇月六日(特公昭六三-四九九八〇号)

設定登録日 平成元年六月二八日

登録番号 特許第一五〇四一七〇号

特許請求の範囲 添付の特公昭六三-四九九八〇号特許公報の該当欄記載のとおり

3  考案の名称 飯の自動送り装置

出願日 昭和五八年五月一六日(実願昭五八-七二九三二号)

出願公開日 昭和五九年一一月二八日(実開昭五九-一七八〇八九号)

出願公告日 平成元年一一月二二日(実公平一-三九一九九号)

設定登録日 平成二年八月六日

登録番号 実用新案登録第一八二五五七一号

実用新案登録請求の範囲 添付の実公平一-三九一九九号実用新案公報の該当欄記載のとおり

三  被告の行為等

1  原告と被告の関係

原告と被告は、昭和五九年八月一〇日、被告を原告の製造するいなり寿司成形機及び米飯成形機の販売総代理店とする旨の契約(以下「本件総代理店契約」という。)を締結し、原告は、被告に対し、その頃、いなり寿司成形機二台を販売した(争いがない)。

2  被告は、昭和六〇年三月頃から別紙物件目録一記載のにぎり舎利玉成形機(以下「イ号物件」という。)を業として製造販売しており、昭和六一年五月頃から昭和六二年七月までの間に、別紙物件目録二記載のいなり寿司成形機(以下「ロ号物件」という。)を業として製造販売した(争いがない)。被告は、イ号物件及びロ号物件の製造販売を始めた当時、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願について出願公開がされたことを知っていた(弁論の全趣旨)。

3  イ号物件の構成の一部である飯の自動供給装置は本件発明二の技術的範囲に、同飯の自動送り装置は本件考案の技術的範囲にそれぞれ属し、ロ号物件の構成の一部である飯の自動供給装置は本件発明二の技術的範囲に、同飯の自動送り装置は本件考案の技術的範囲に、同揚げ皮搬送装置は本件発明一の技術的範囲にそれぞれ属し(争いがない)、被告代表者はイ号物件及びロ号物件の製造販売を始めた当時そのことを知っていた(弁論の全趣旨)。

四  原告の請求の概要

原告は、昭和六二年七月一五日までは本件特許・実用新案登録を受ける権利を単独で有していたとして、被告の同日までのイ号物件及びロ号物件の製造販売について、特許法六五条の三、実用新案法一三条の三に規定する補償金ないし特許法五二条に規定するいわゆる仮保護の権利侵害による損害賠償金合計五〇〇〇万円及び同月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払と、原告被告間には、原告が手形不渡等支払の停止をすることを停止条件として、原告の被告に対する金銭債務の給付に代えて本件特許・実用新案登録を受ける権利等の各二分の一を被告に譲渡する旨の停止条件付代物弁済契約があり、被告はその条件成就の際には本件特許・実用新案登録を受ける権利の共有持分二分の一の価額と債務の差額を清算金として支払う義務があるところ、右停止条件は右同日に成就したとして、清算金四六三八万一八七五円及び右停止条件成就の日の翌日である同月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求。

五  争点

1  被告は、昭和六〇年三月頃から昭和六二年七月一五日までの間、本件発明・考案を実施する権原を有していたか。

2  右が認められない場合、被告が原告に支払うべき補償金及び損害賠償金の額。

3  被告は清算義務を負担しているか。それが肯定された場合、被告が原告に支払うべき清算金の額。

六  争点に関する当事者の主張

1  争点1(被告の実施権原の有無)について

(被告の主張)

(一) 被告は、昭和六〇年一月中旬頃、原告から本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の譲渡を受け、更にその頃右各権利を鈴木に譲渡し、昭和六〇年六月七日には特許庁長官に鈴木を一部共有加入者とする出願人名義変更届を提出したから、被告が昭和六二年七月一五日までイ号物件及びロ号物件を製造販売したことは、被告ないし鈴木が本件特許・実用新案登録を受ける権利の共有者として有する実施権に基づく正当な行為である。被告の右行為について、原告が補償金請求権や仮保護の権利侵害による損害賠償請求権を取得する余地はない。

(二) 右譲渡を受けた事情は次のとおりである。

(1) 被告は、昭和五九年八月一〇日本件総代理店契約を締結した際、額面金額三〇〇万円の約束手形二通(満期昭和五九年一一月二〇日及び同年一二月二〇日)を振出し原告に交付して六〇〇万円を原告に貸与した。

(2) 被告は、同年一〇月頃、額面金額三〇〇万円の約束手形二通(満期昭和六〇年一月二〇日及び同年三月二五日)及び額面金額二四〇万円の約束手形一通(満期昭和六〇年三月頃)を振出し原告に交付して合計八四〇万円の約束手形を貸与した。

(3) 被告は、昭和五九年一〇月初旬頃、原告から、一台当たり代金六八〇万円で海苔三角袋製造機二台の発注を受け、額面金額六八〇万円の原告振出しの約束手形二通(満期昭和六〇年四月一五日及び同年五月一五日)の交付を受けた。

(4) 被告は原告に対し右合計二八〇〇万円の債権を有する状況にあったところ、昭和六〇年一月中旬頃、原告代表取締役植村は被告に対し、原告が右貸与約束手形の返還に代えて振出し被告に交付していた約束手形のうち最初に満期が到来する昭和六〇年一月二〇日満期・額面金額三〇〇万円の約束手形について、書替による支払期日の延期を申入れてきた。被告は、右申入れを契機に、原告の資金繰りが悪化し、原告には従業員もほとんどおらず事実上倒産している状況にあることを知り、原告に対する債権の回収は事実上不可能であると判断したので、植村に対し、約束手形の書替を承諾し手形不渡を出して倒産することを免れることに協力するための条件として、にぎり舎利玉成形機及びいなり寿司成形機の二機種の製造販売を被告において行うこと及びそれらの機械に関連する特許ないし実用新案登録を受ける権利の各二分の一を被告に譲渡することを要求したところ、植村は、手形不渡を免れるために右要求を受諾し、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願についての出願人名義変更手続に関する書類に押印した。右各出願についての出願人名義変更届は、昭和六〇年一月二一日に一旦提出されたが、右書類に押印した原告の印鑑が出願時のものと異なっていたためそれは一旦取下げ、改めて原告から必要書類に押印を得たうえ同年六月七日に再度提出された。

(5) 手形の期限の猶予を求めるということは、被告が手形書替を承諾しなければ不渡を出さざるをえないという、事実上の倒産状況にあることであり、被告は、原告の事実上の倒産という事態に直面して、債権回収を目的として、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の譲渡を受けたのである。二八〇〇万円もの資金回収のために採りうる方法としては、いなり寿司成形機などの製造販売を被告において行うこと及びその法的な根拠である本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の譲渡という条件は絶対に必要なものであった。右譲渡に際して、その対価について特定の金額は明示されていないが、約束手形書替による期限の延期の利益にとどまるものではなく、原告の事実上の倒産状況を前にして、被告が、原告に対して有していた二八〇〇万円の債権を事実上放棄することが、右譲渡の対価となることは原告被告間の共通の認識であった。被告は、右譲渡を受けた後は原告に債務の返済を求めていない。

(三) 原告は、原告被告間には原告が手形不渡を出すなどしない限り名義変更手続をしないという約束があり、両者の合意内容を合理的に解釈すれば停止条件付代物弁済契約であった旨主張するが、特許権は、その発明の実施による利益を得てはじめてその現実的な経済的価値が生じるものであり、原告が手形不渡を出したときに出願人の名義変更を受けるという条件だけでは、何らの資金回収の目処がたたないことは明らかである。原告が事実上倒産状況にあることが判明した以上、重ねて不渡を出すことを停止条件とする代物弁済契約を締結する筈はなく、また、被告はいつでも原告振出の約束手形を銀行に取立委任して不渡にすることが可能であったのであるから、このような状況の下で「手形不渡を条件にする」旨の合意があったと考えるのは不合理である。

被告は、イ号物件及びロ号物件の製造販売行為について、原告から無断実施を理由とする警告を受けたことはなく、昭和六〇年四月頃に二〇〇万円、同年七月頃に三〇〇万円を特許等使用料相当損害金の内金として支払うよう請求を受けた事実もない。

(原告の主張)

(一) 原告が昭和六〇年一月中旬頃被告に本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一を譲渡したことはない。

(二) 譲渡に関する書類が作成された事情は次のとおりである。

(1) 原告が、昭和六〇年一月頃、被告に対し、昭和五九年一〇月頃に原告が振出し交付していた約束手形の書替を依頼したところ、被告代表者鈴木は、右書替に応じるには会社の会計担当者がうるさいので、将来原告が不渡等を出したときのために、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の譲渡書類一式に原告の記名捺印をしてもらいたい旨原告に提案し、その際、鈴木は、右譲渡書類は預かっておくだけで、原告が手形不渡等支払の停止をしない限り右書類を使って名義変更手続をすることはないし、仮に右手続をするときには原告と協議のうえ実行する旨述べたので、その言を信じた原告代表取締役植村は、本件特許・実用新案登録を受ける権利を列記した譲渡証書、委任状等に記名捺印のうえ、被告に預けた。

したがって、植村が右譲渡書類一式に記名捺印したのは、原告が被告に交付していた約束手形債務の担保のためである。原告は、被告から約束手形の書替による期限の猶予を得ただけであり、原告被告間に右各権利の売買契約は成立していない。また、右時点では、原告は右各権利を被告に譲渡することも、出願人名義変更届を特許庁長官に提出することも、いずれも承諾していなかったから、譲渡担保契約も成立していない。本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の評価額は、後述のとおり六一三八万一八七五円であり、被告が得た期限の利益に比してはるかに大であり、両者は均衡しない。

(2) 被告の主張(二)(1)の事実は認める。しかしながら、この六〇〇万円は、本件総代理店契約に基づき借用したものであり、その実質は、本件総代理店契約の保証金たる性質のものであって、原告は同契約が継続される間は返還する必要はないと理解していたし、その趣旨は被告も理解していたから、原告が振出し交付した約束手形の書替に際しても利息を付さずに処理されていた。したがって、原告は昭和六〇年一月の時点で、右債務を対価として本件特許・実用新案登録を受ける権利を譲渡する意思など全くなく、その点での意思の合致はありえない。

原告被告間には、被告は原告からいなり寿司成形機を月間二、三台の割合で購入する旨の契約が成立していたが、被告は、昭和五九年八月一〇日以降右各機械を全く購入しなかったため、原告は、被告に対して右各機械を購入するよう申し入れるとともに、昭和五九年一〇月以降昭和六〇年二月頃までの間に、各二〇〇万円の貸与を二回請求したところ、被告は、二回にわたり、額面金額二〇〇万円の約束手形を振出し原告に交付し、原告は、その見返りに額面金額同額の約束手形二通を振出し被告に交付した。

被告の主張(二)(3)の事実は認める。原告は、昭和五九年一〇月二〇日、被告主張の約束手形二通を振出し、更に、被告が追加製作部分の代金支払を要求したのに応じて、昭和六〇年に、額面金額四〇〇万円の約束手形一通(満期昭和六〇年一一月二〇日頃)を振出し被告に交付した。しかしながら、原告被告間の請負契約は、原告が訴外株式会社武蔵野フーズから一〇台の発注を受け、原告が作成した図面に基づき右機械二台の製作、納入、検収までを被告に請け負わせたものであって、株式会社武蔵野フーズと原告間の契約内容どおり毎時一八〇〇個の処理能力を有する海苔三角袋製造機一号機、二号機を製造して株式会社武蔵野フーズに搬入し、検収を終了することが契約内容となっていたが、一月二〇日頃の時点では、被告は未だ右機械の納入もしておらず、検収を受けることができるか否かも未確定な状態であったのであるから、この時点で原告が右債務を確定的な債務と認めて、本件特許・実用新案登録を受ける権利の譲渡の対価とすることはありえない。

(3) 原告が被告に額面金額三〇〇万円の約束手形の書替を依頼したことは事実であるが、それは当時の原告被告間の緊密な関係を前提に依頼しことである。原告は株式会社武蔵野フーズから海苔三角袋製造機の注文を受けて張り切っていた頃であり、三〇〇万円の融通をつけることができずに不渡を出すことなどありえなかった。被告もこの大きな仕事に飛びついてきて海苔三角袋製造機の製造を一生懸命にやっていた時期であり、そうであるからこそ、被告も右約束手形の書替に同意したのである。

また、被告は、昭和六〇年一月以降、原告の注文に基づいて海苔三角袋製造機の製造を継続し、同年三月にはその一号機を納入している。原告が事実上倒産状態になったのであれば、被告がかかる行為をする筈がない。また、原告が、被告の求めに応じて海苔三角袋製造機の追加製作部分の代金として額面金額四〇〇万円の約束手形を振出し交付した時期も昭和六〇年一月以降である可能性が高い。

以上の状況であったのであるから、昭和六〇年一月の時点で原告が事実上の倒産状態にあったということはありえない。

(4) 以上のとおり、昭和六〇年一月の時点で確定的な譲渡契約が成立したとの被告主張は、その後の当事者の行動とも矛盾し、その対価の意味内容は曖昧模糊としている。したがって、原告被告間の合意を合理的に解釈すれば、原告が手形不渡等支払の停止をすることを停止条件として、被告に対する債務支払に代えて、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一を譲渡する旨の停止条件付代物弁済契約が成立していたにすぎないと言わざるをえない。

(三) 昭和六〇年六月七日に特許庁長官に提出された各出願人名義変更届に添付された譲渡証書は、原告代表取締役植村が記名捺印のうえ被告に預けた譲渡証書とは別のものである。

原告代表取締役植村は、昭和六〇年一月頃以降同年六月までの間に、三回位、原告が振出し被告に交付していた約束手形の書替による支払期日の延期を求め、その書替手続のために被告応接室で被告の会計担当者に原告会社の記名印及び代表者印を預けたことがあった。被告は、それを奇貨として、原告の記名印及び代表者印を原告に無断で使用して、本件特許・実用新案登録を受ける権利に関する昭和六〇年六月七日付譲渡証書、同日付印鑑変更届及び委任状を作成し、原告に無断で鈴木を共有加入者とする出願人名義変更届を提出したのである。したがって、右出願人名義変更は、実体関係を伴わないものであるから、その時点では本件特許・実用新案登録を受ける権利の承継の効力を生じない。

(四) 原告代表取締役植村は、被告がイ号物件及びロ号物件の製造販売を開始したことを知り、その所為は原告の出願中の権利を侵害するので直ちに中止し実施料相当の損害を賠償するよう申し入れたが、被告は、中心的発明である本件発明二についての特許出願について特許査定がされた段階で話し合いをしよう、との回答を繰り返すばかりであった。

2  争点2(補償金及び損害賠償金の額)について

(原告の主張)

被告は、昭和六〇年三月から昭和六二年七月一五日(停止条件成就日)までの間、イ号物件を少なくとも一二〇台、業として製造販売し、昭和六一年初めから昭和六二年七月一五日までの間、ロ号物件を少なくとも二五台、業として製造販売した。右各出願は、前記のとおり出願公告された。

イ号物件一台当たりの販売価格は一二五万円であり、本件発明二及び本件考案の実施(イ号物件の製造及び販売)に対し通常受けるべき金銭の額はその二〇パーセントが相当であるから、原告は被告に対して右期間中の販売総額一億五〇〇〇万円に二〇パーセントを乗じた三〇〇〇万円の補償金請求権を有する。また、ロ号物件一台当たりの販売価格は四〇〇万円であり、本件発明・考案の実施(ロ号物件の製造及び販売)に対し通常受けるべき金銭の額はその二〇パーセントが相当であるから、原告は被告に対して右期間中の販売総額一億円に実施料相当額二〇パーセントを乗じた二〇〇〇万円の補償金ないし損害金(本件発明一については、出願公告があった昭和六一年八月二一日前は補償金、同日以降は損害金)請求権を有する。

(被告の主張)

被告が昭和六〇年四月から昭和六二年七月までの間、イ号物件を五五台製造販売したことは認め、その余は否認する。販売価格は一台平均約一〇〇万円であり、一台当たり利益は約二〇万円であった。

被告が昭和六一年五月頃から昭和六二年七月までの間、ロ号物件を五台製造し、うち三台を販売したことは認め、その余は否認する。販売価格は一台三八〇万円であり、利益率はその二〇パーセントであった。

3  争点3(清算金支払義務)について

(原告の主張)

(一) 原告は、昭和六二年七月一五日に一回目の手形不渡、同月二〇日に二回目の手形不渡を出して、倒産した。

したがって、原告被告間の停止条件付代物弁済契約の停止条件は同月一五日に成就し、被告は、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分を確定的に取得した。

(二) 原告被告間の停止条件付代物弁済契約は、被告の債権担保の手段として締結されたものであり、被告は、停止条件が成就した時に原告に対する債権について優先弁済権を主張し、その満足を図れば足りる。このような、経済的には債権担保を目的とし、法律的には所有権移転の形式を採った契約の効果は合理的範囲に制限して解釈すべきである(最高裁判所第一小法廷昭和四二年一一月一六日判決、民集第二一巻九号二四三〇頁参照)。このことは、本件においても同様であり、被告は、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分権の評価額が被告の債権額を超えるときは、その超過額を清算金として原告に交付すべきである。

(三) 被告の原告に対する債権の額

原告は、被告が昭和六〇年三月頃からイ号物件の製造販売を開始したことを間もなく知ったので、同年四月頃に金二〇〇万円、同年七月頃に金三〇〇万円を特許等使用料相当損害金の内金として各請求したところ、被告は、その頃、右各額面額の約束手形を振出し融通手形として原告に交付して五〇〇万円を貸し渡し、原告も被告に対して、同額の約束手形を右貸金債務の支払確保のために振出し被告に交付した。

結局、昭和六二年七月一五日当時の原告の被告に対する債務の総額は前記1(原告の主張)(二)(2)に記載の六〇〇万円、二〇〇万円及び二〇〇万円に右五〇〇万円を合わせた一五〇〇万円である。

(四) 被告が取得した権利の価額

本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分権の評価額は、本件発明二及び本件考案を実施したイ号物件の実施料相当額の二分の一の金額で算出するのが相当であり、本件発明・考案のうち中心的で重要なものは本件発明二であるから、清算金支払義務の計算上、権利残存期間は本件特許権二の残存期間(存続期間満了は平成一五年五月であるが、便宜上そのうち昭和六二年七月一六日からの一三年間を基礎として計算)をもって計算すると、次のとおり六一三八万一八七五円となる。

イ号物件の年間総販売台数 五〇台

一台当たりの販売価格 一二五万円

実施料率 二〇パーセント

残存年数 一三年

一三年の新ホフマン係数 九・八二一一

共有持分 二分の一

一二五万×五〇×〇・二×九・八二一一×〇・五=六一三八万一八七五

(五)被告が支払義務を負担する清算金額

被告は、原告に対し、右六一三八万一八七五円と一五〇〇万円の差額である四六三八万一八七五円の清算金を支払う義務を負う。

なお、前記の昭和五九年八月の六〇〇万円の融資は、実質的には原告被告間の本件総代理店契約の保証金であり、被告は、販売代理店としての義務(同契約第二条の協力義務、第五条の誠実義務)に反して、その後の販売協力を怠ったばかりでなく、かえって、原告から購入した一台を分解してその構造を探知したうえ、その模倣品であるイ号物件及びロ号物件を製造、販売して原告の業務を妨害したから、被告の原告に対する右六〇〇万円の債権は、昭和六二年七月一五日当時、違約罰として消滅し、手形債権の原因関係が消滅していた。

また、海苔三角袋製造機については、原告被告間の請負契約の内容は、毎時一八〇〇個の処理能力を有する海苔三角袋製造機一号機、二号機を製造して株式会社武蔵野フーズに搬入し、検収を終了することであった。しかるに、被告は、昭和六〇年三月一七日に株式会社武蔵野フーズに右機械の一号機を搬入したものの、二、三日間被告会社係員が現地に出張しただけで、毎時八〇〇個の処理能力しか出せないにもかかわらず、検収未了のまま帰ってしまい、その後の補修義務を履行しなかった。そのため、やむなく原告従業員が補修作業を引き続き実施してやっと検収を終了できたのであるから、一号機に関する被告の債務は、被告の責めに帰すべき事由により履行不能となった。原告は被告に対し、平成四年四月一六日の口頭弁論期日において陳述した原告準備書面をもって、一号機の請負契約を解除する旨の意思表示をしたから、右請負代金債務は消滅している。また、被告は、二号機については、枠組みを製作しただけでその後の請負債務を履行せず、右枠組みを被告工場玄関前の空き地に放置したため、原告は二号機の請負契約を合意解除して、右二号機枠組みを原告工場に引き揚げた。したがって、原告の被告に対する海苔三角袋製造機の請負代金の支払のために振出した前記三通の約束手形及びその手形の書替手形の手形債務は原因関係が消滅している。また、原告は、被告の右債務不履行によって、株式会社武蔵野フーズとの右機械一〇台の売買契約(一台当たり一二〇〇万円、一〇台の売買契約)上の債務を履行できず、多額の損害を被った。

(六) 原告が被告主張の日本惣菜産業展にいなり寿司成形機を出展したことは認めるが、その際には本件発明・考案に関する主要部分にカバーをかけて展示し、一般人にはその内容が知られないようにしていたから、公然実施にはならない。

また、被告は、本件発明・考案が特許ないし実用新案登録を受けることができる発明ないし考案であることを前提として、原告から本件特許・実用新案登録を受ける権利を譲り受けた旨主張し、その旨の出願人名義変更届を提出し、イ号物件及びロ号物件を業として製造販売し、莫大な利益を挙げてきた。かように、各権利の有効性を前提に行動し、利益を挙げてきたにもかかわらず、原告に対する清算の場面においてのみ、突然に本件特許・実用新案登録について無効事由があると主張することは、信義誠実の原則、禁反言の原則に反し許されない。

(被告の主張)

(一) 本件特許・実用新案登録を受ける権利の各共有持分は、原告から被告に確定的に譲渡されたものであって、清算義務を伴うものではない。

(二) 特許権等の評価額は、原告主張の如く単純に決定されるものではない。原告は、二八〇〇万円の債務の事実上の支払免除という対価をもって、本件特許・実用新案登録を受ける権利の譲渡を承諾したものであり、出願中の権利にすぎない段階での評価としては、二八〇〇万円でも高額すぎるものである。

海苔三角袋製造機は、一台は検収も終了し、他の一台は、原告の要求に従い、九〇パーセントほど完成したものに必要部品を全部付加し、それを取付けさえすれば完成となる状態で引き渡しており、その後の原告と被告の債務の残額確認においても、原告は何らの異議もなく全額の支払債務を負担していることを確認していた。また、六〇〇万円の融資金返還債務が違約罰として消滅したとの主張も、被告に違約の事実はなく、原告が全額支払債務を負担していることを確認していたから、事実に反する主張である。

また、被告は、昭和六〇年に、海苔三角袋製造機の製造に関して必要となった追加製作部分の代金を原告に請求したところ、原告はその支払を承諾して、その支払のために額面金額三九五万円の約束手形(満期は昭和六〇年八月一五日)を振出し被告に交付した。

結局、原告が完全に倒産した昭和六二年七月一五日当時における被告の原告に対する債権の額は、元本だけでも、前記の二八〇〇万円から、被告が原告から受領し昭和六〇年三月五日に決済された他者振出の約束手形金一〇〇万円を控除した二七〇〇万円に、その後生じた追加製作部分に関する債権三九五万円を加算した三〇九五万円であり、その利息ないし遅延損害金も、当時原告被告間での利息授受に適用されていた平均的利率年七・五パーセントの割合で計算すると四一三万一〇二八円に達していた。したがって、仮に原告被告間の合意が原告の主張する如く停止条件付代物弁済契約であったとしても、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各共有持分は、右債権の代物弁済にあてられており、被告が支払うべき清算金は存在しない。

そのうえ、原告は、昭和五八年四月八日から同月一〇日までの間、東京九段の科学技術会館で開催された日本惣菜産業展において、本件発明・考案を実施した米飯成形機及びいなり寿司成形機を展示し、しかも、その時点で、既に右各製品を製造販売していたから、本件発明・考案はいずれも出願前に公知となっていた。したがって、本件発明・考案の技術的範囲は限定的に解釈されなければならず、このような出願前公知の発明及び考案について特許ないし実用新案登録を受ける権利は、登録を受けても無効理由があり、価値が低いものである。

昭和六二年八月以降のイ号物件の販売台数は、昭和六二年八月から同年一二月までに一〇台、昭和六三年一五台、平成元年一五台、平成二年一二台、平成三年一〇台であり、販売価格は一台平均約一〇〇万円、一台当たり純利益は約二〇万円である。ロ号物件は昭和六二年八月以降は製造販売していない。原告主張の如く昭和六二年七月以降一三年間にわたり毎年五〇台が販売できるということは右実績から考えてもありえないことであり、むしろ、今後右台数よりも減少すると考えられ、残存期間全てにわたり毎年確実に販売できる台数を見込むことは不可能であり、原告の主張は経験則に反する。

第三  争点に対する判断

一  争点1、2(被告の実施権原等)について

1  昭和六〇年一月当時における被告の原告に対する債権の状況

(二) 原告と被告は、昭和五九年八月一〇日締結の本件総代理店契約第四条において、被告が原告に対して、運転資金として弁済期を定めずに無利息で六〇〇万円を貸与する旨約し、被告は同日、金銭交付の方法として、額面金額三〇〇万円の未完成の約束手形二通(以下未完成の約束手形も「約束手形」という。うち一通は、満期は昭和五九年一一月二〇日、支払地は大阪市、支払場所は大正相互銀行森小路支店、受取人及び振出日は白地、振出地は守口市であり、もう一通は、満期が同年一二月二〇日である外、右と同じ。)を振出し原告に交付し、原告はその貸金返還債務の支払のために額面金額六〇〇万円の約束手形一通(満期は白地、支払地は伊丹市、支払場所は第一勧業銀行伊丹支店、受取人は被告、振出日は白地、振出地は伊丹市。)を振出し被告に交付した(甲一、二五の1、2、乙一~四、一八、原告代表者)。被告が原告に交付した右二通の約束手形は、満期に全額支払われた(甲一五の2、二一、乙一八)。

(二) また、被告は、同年九、一〇月頃、いわゆる融通手形として、額面金額三〇〇万円の約束手形一通(満期は昭和六〇年一月二〇日、支払地は大阪市、支払場所は大正相互銀行森小路支店、受取人及び振出日は白地、振出地は守口市)を振出し原告に交付し、原告は、これと交換に額面金額三〇〇万円の約束手形一通(満期は昭和六〇年一月二〇日、支払地は伊丹市、支払場所は第一勧業銀行伊丹支店、受取人及び振出日は白地、振出地は伊丹市。)を振出し被告に交付し(甲一五の1、2、乙六、七、一八、証人青山、原告代表者)、更に、被告は、昭和五九年一二月頃に、いわゆる融通手形として、額面金額三〇〇万円の約束手形一通(満期は昭和六〇年三月二五日、支払地は守口市、支払場所は協和銀行守口支店、受取人及び振出日は白地、振出地は守口市。)を振出し原告に交付し、原告は、これと交換に額面金額三〇〇万円の約束手形一通(満期は昭和六〇年三月二五日、支払地は伊丹市、支払場所は第一勧業銀行伊丹支店、受取人及び振出日は白地、振出地は伊丹市。)を振出し被告に交付した(甲一五の1、2、乙八、九、一八、証人青山、原告代表者)。被告は、更に、同年末頃ないし昭和六〇年初め頃、いわゆる融通手形として、額面金額二四〇万円の約束手形一通(満期は昭和六〇年三月三一日)を振出し原告に交付し、原告は、これと交換に被告の右手形債務支払資金の支払のために、バース工業株式会社振出の額面金額一四〇万円の約束手形一通(満期は同年三月二五日、支払地は福岡市、支払場所は福岡相互銀行渡辺通支店、受取人及び振出日は白地、振出地は福岡市)及び精工商事株式会社振出の額面金額一〇〇万円の約束手形一通(満期は同年三月五日、支払地は東京都千代田区、支払場所は第一勧業銀行神保町支店、受取人及び振出日は白地、振出地は東京都千代田区)を被告に交付した(甲一五の1、2、乙一〇、一一、一八、証人青山、原告代表者)。

(三) 原告は、昭和五九年一〇月初旬頃、被告に、一台当たり代金六八〇万円で海苔三角袋製造機二台の製造を発注し、同月二〇日、その代金債務の支払のため額面金額六八〇万円の約束手形二通(うち一通の満期は昭和六〇年四月一五日、支払地は伊丹市、支払場所は第一勧業銀行伊丹支店、受取人及び振出日は白地、振出地は伊丹市。他の一通は、満期が同年五月一五日である外、右に同じ。)を振出し被告に交付した(甲一五の2、一八、乙一四、一五、一八、証人青山、原告代表者)。

2  手形書替

右状況にあったところ、原告代表者植村は、昭和六〇年一月中旬頃、被告に対して、原告が振出し被告に交付していた右約束手形のうち、1(二)に記載の満期同年一月二〇日、額面金額三〇〇万円の約束手形について、支払の猶予を依頼し、被告代表者鈴木は右申入れを承諾した(争いがない。但し、その支払猶予に際しされた両者間における合意の内容については争いがあり、当裁判所の認定は後記のとおりである。)。そして、被告は既に、右約束手形について金融機関で手形割引を受けていたことから、支払猶予のための具体的方法として、原告が、旧手形の額面金額に新たな満期までの利息を加算した額を額面金額とした新たな約束手形(書替手形)を振出し被告に交付し(振出し交付した事実は争いがない。)、被告は書替手形の割引により得た金員で旧手形を金融機関から買戻した(甲一五の1)。

3  出願人名義変更届の提出

昭和六〇年六月七日、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願について、特許ないし実用新案登録を受ける権利の一部を鈴木に譲渡したことに相違ない旨の記載がある原告代表取締役植村作成名義の譲渡証書及び委任状並びに鈴木作成の委任状を添付して、原告を共有承諾者、鈴木を共有加入者とする出願人名義変更届が特許庁長官に提出されたことは前記第二の二のとおりであるが、右各譲渡証書及び委任状の原告代表取締役植村名義の記名は、原告会社の記名印によるもので、その名下の印影は、原告代表取締役植村の代表者印によって顕出されたものであり(甲一三、一四の各1、2、原告代表者)、植村は昭和五九年九月か一〇月頃から右代表者印を使用していた(乙七、原告代表者)。

4  手形書替に際してなされた合意について

(一) 被告の主張について

被告は、右手形書替に際して、原告が事実上倒産している状況であることを知り、原告に対する債権の回収は事実上不可能であると判断して、原告が手形不渡を出して倒産することを免れるための条件として、にぎり舎利玉成形機及びいなり寿司成形機の二機種の製造販売を被告において行うこと及びそれらの機械に関する本件特許・実用新案登録を受ける権利の各一部を被告に譲渡することを提案したところ、原告は、右被告の提案を承諾し、出願人名義変更手続に関する書類を被告に交付したものであり、右各権利の譲渡の対価は、手形書替による期限の延期の利益にとどまらず、原告の事実上の倒産状況を前にして、被告が原告に対して有していた二八〇〇万円の債権を事実上放棄することがその対価となることは原告被告間の共通の認識であった旨主張し、右主張に副う証拠として証人青山新一の証言及び乙第一八号証(同人作成の陳述書)があるけれども、以下の理由により、右被告主張事実を認めることはできない。

確かに、右手形書替に応じることにより、被告は自らが融通手形として振出し原告に交付した額面金額三〇〇万円の約束手形については満期である昭和六〇年一月二〇日に支払をする一方で、同手形と交換に原告から交付を受けて金融機関で割引を受けていた約束手形については同期日に支払われず、書替手形の割引で得た金員で旧手形を買い戻すことによりその時点での現実の資金負担はしなくてすむものの、原告の経営の帰趨によっては書替手形の割引先の金融機関から遡求権ないし買戻請求権の行使を受ける危険があり、同日の支払ができない状況では、同じく交換的に振出し交付した同年三月二五日満期の額面金額三〇〇万円の約束手形についても、原告が満期に支拡をなしえずに同様の状況となる可能性があると考え、六〇〇万円の貸金返済や海苔三角袋製造機二台の製造代金一三六〇万円の将来の支払を含めて原告の債務履行の確実性を懸念したことはもっともと思われる。

しかしながら、証拠(甲一五の1、2、一七、一九、二一、原告代表者)によれば、その当時、原告は、資金繰りが苦しくなってはいたものの、いなり寿司成形機を製造販売するほか、株式会社武蔵野フーズから海苔三角袋製造機の注文を受けてこれを被告に発注しており、その一号機が一定の性能を出せれば代金九〇〇万円で一〇台以上の注文を受ける予定となっていて、原告代表者としては将来経営が好転する期待を有しており、未だ事実上の倒産に至っているような状況ではなかったと認められるから、その時点で、被告の原告に対する債権の放棄を事実上の対価として原告から被告に本件特許・実用新案登録を受ける権利の各一部を確定的に譲渡するというのは不合理である。また、被告は同年一月中旬頃以降も同年三月中旬頃まで原告から請負った右海苔三角袋製造機の一号機の製造を継続し、更に四月終わり頃までの間二号機の製造をしている(乙一八、二一~二三、証人青山)が、原告が同年一月中旬頃の時点で事実上倒産状態にあったとすれば、被告がそのようなことをする筈はない。また、被告は、その後も昭和六二年七月までの間、原告振出の右各約束手形の満期が近づく都度、原告の依頼に応じて、延期分の利息を現金で受領するか手形金額に上乗せするかして、手形の書替による支払期限の延期に応じていたほか、昭和六一年二月には、代理店契約締結時の六〇〇万円の貸金のうち二五〇万円について改めて原告に借用書を書かせており(甲一五の1、2、二〇~二六、原告代表者)、これらの行為は、昭和六〇年一月中旬頃の時点で、被告の原告に対する債権の放棄を事実上の対価として、原告から本件特許・実用新案登録を受ける権利の各一部の譲渡を受けたのであるとすれば不要な行為である。これら諸事実を総合考慮すると、結局、前記被告主張事実を認めることはできないというべきである。

(二) 原告の主張について

他方、原告は、原告被告間の合意内容を合理的に解釈すれば、原告が手形の不渡等支払の停止をすることを停止条件とする停止条件付代物弁済契約であって、手形不渡等を出さない限り名義変更手続をすることもないという約束であった旨主張し、原告代表者は、昭和六〇年一月中旬頃、被告に約束手形の書替を依頼した際に、鈴木から、約束手形の書替に応じると原告が倒産した場合に具合が悪いので、会計担当者の了解を得るために形式上譲渡書類を出して欲しい、担保として一応書類を書いてもらうが預かって置いておくだけで、特許庁へ提出はしない、との説明を受けたので、その言を信じて譲渡証書に捺印したが、その書類は、現実に特許庁に提出された出願人名義変更届に添付された譲渡証書とは違って、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願の出願番号が一枚の紙に縦に列記されたものであり、その表題も、「譲渡証書」とは書かれておらず、名義変更用の書類であった、また、手形の書替の際には被告の応接室で被告会計担当者に原告代表取締役植村名義の記名印、代表者印と手形用紙を渡し、会計担当者が別の部屋で金利を計算して金額を決定し手形用紙にそれを記入したうえ、右記名印を用いて記名し、代表者印を捺印していたので、被告がその機会に右記名印と代表者印を冒用して特許庁に提出された出願人名義変更届に必要な譲渡証書等を作成したものと考えられる旨供述し、原告代表者作成の陳述書(甲一五の1)にも同旨の記載がある。

しかしながら、被告が原告の代表者印等を冒用して譲渡証書等を作成した旨の原告代表者の供述及び右陳述書の記載は、証人青山の証言及び弁論の全趣旨に照し採用できないし、また、特許ないし実用新案登録を受ける権利の承継は、一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出ることが効力発生要件である(特許法三四条四項、実用新案法九条二項)から、単に譲渡証書や委任状等を預かるだけで、特許庁長官への届出をしないでいる場合、原告振出の約束手形が不渡となる前に原告が資金繰りに窮して、あるいは不渡となった後にそれを知った他の債権者から要求を受けて、原告が同一の特許ないし実用新案登録を受ける権利を他に譲渡し、被告が右不渡の事実を知って特許庁長官への届出をするよりも先に他の者がその譲渡につき特許庁長官に対する届出をすると、その者が右権利を承継することとなり、被告が、その者に対し、先に停止条件付代物弁済契約を締結していたと主張しても、担保とする趣旨でそれらの書類を預かっていたと主張しても、何ら対抗できず、被担保債権を回収することはできないことになるのであるから、そのような無価値に帰するおそれが多分にある、原告主張の如き停止条件付代物弁済の合意や、担保として預かっておくだけで特許庁長官への届出をしないという合意があったとは考え難い。したがって、右原告主張事実も認めることはできないと言わざるを得ない。

(三) 当裁判所の認定

右諸事実(右手形書替に至る経緯、手形書替の状況、借用書の差入れ、手形書替時における延期分の利息の受領等)、被告がイ号物件及びロ号物件の製造販売を開始してから昭和六二年七月までの間、原告は被告の右製造販売行為を知っていたにもかかわらず被告に対し全く抗議等の行為をした事実もないこと(証人青山、弁論の全趣旨。なお、原告代表者は、被告がロ号物件の製造を始めたことに気付いてから、その製造販売を止めるよう何十回となくその中止を求めた旨供述するが、右事実を裏付ける証拠は全くなく、採用できない。)、植村は、昭和六〇年一月中旬頃最初の手形書替時に、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願について、原告を共有承諾者、鈴木を共有加入者とする出願人名義変更届を提出するのに必要な譲渡証書及び委任状に原告代表取締役植村名義の記名印及び代表者印を押印し、被告を通じて特許庁長官に提出したが、方式不備のため受理されなかった(甲一三の1、一四の1、乙一八、証人青山)ため、植村は、被告から要請を受けて、昭和六〇年六月初め頃、印鑑変更届の新印鑑の欄に捺印をし(甲一三、一四の各1、2、乙一八、証人青山、原告代表者)、昭和六〇年六月七日、被告を通じて、原告を共有承諾者、鈴木を共有加入者とする出願人名義変更届及び原告の印鑑変更届を特許庁長官に提出し受理されたことに、証人青山の証言及び原告代表者本人尋問の結果を総合すると、被告は、右最初の手形書替依頼を契機に、原告が事実上倒産の重大危機に陥っていることを察知し、このままでは、手形債務支払資金の支払のためにバース工業株式会社及び精工商事株式会社振出の約束手形の交付を受けている額面二四〇万円の融通手形交付によるものを除き、原告に対する債権の回収が不可能となる蓋然性が強いと判断したが、当時被告は原告に対して前記のとおり多額の融資等をしたばかりで一円の回収もしていない状態にあったため、何とか原告を倒産させずに支援し一円でも多くの債権を回収しようと考え、その方策として、原告が手形不渡を出して倒産することを免れさせるために手形書替依頼に応じるための条件として、にぎり舎利玉成形機及びいなり寿司成形機の二機種の製造販売を被告が行うことについての承諾とこれら機械に関する本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願について、出願人に被告代表取締役鈴木を加え原告との共同出願名義に変更することを提案し、原告も右提案を受諾し、その旨合意したことが認められ、右合意の内容は、昭和六〇年一月中旬頃の約束手形書替以降原告が手形書替依頼をしなくなるまでの間は、原告は被告が本件発明・考案を実施することを許諾することにすると共に、原告は被告に対し、被告の原告に対する債権の担保として、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一を譲渡(譲渡担保)する旨及び被告の危惧したとおり原告が倒産した場合には、被告の原告に対する債権の支払に代えて、右譲渡担保の目的とされている権利を被告に確定的に譲渡する(代物弁済する)趣旨であると認めるのが相当である。

そして、原告は被告に対し手形の書替の依頼を繰り返しながら何とか倒産を免れていたが、結局被告の危惧したとおり昭和六二年七月一五日手形不渡を出して完全に倒産したこと(争いがない)により、右権利の各二分の一は被告に確定的に譲渡された。

なお、右権利の各二分の一の譲渡に関し、譲渡証書には原告から鈴木に譲渡した旨記載され、特許庁長官に対する出願人名義変更届も鈴木を共有加入者としているが、これは、原告被告双方の合意によることであり、しかも、鈴木は被告の代表取締役であるとともに、被告の株式の大多数を保有する被告のいわゆるオーナー経営者である(弁論の全趣旨)から、少なくとも、原告と被告の間においては、被告への権利移転の効果を認めて差し支えないものと解される。

したがって、本件特許・実用新案登録を受ける権利(出願公開による権利及び出願公告によるいわゆる仮保護の権利を含む)は、昭和六二年七月一五日までは原告が有し、同日以降は原告と被告ないし鈴木が共有しているものであるが、同日までの被告によるイ号物件及びロ号物件の製造及び販売は、原告の許諾に基づくものであるから、右被告の行為について原告に補償金請求権や仮保護の権利侵害を理由とする損害賠償請求権が生じる余地はないというべきである。

二  争点3(清算金支払義務)について

1  清算義務の有無

前記の、昭和六〇年一月中旬頃の時点における原告被告間の合意は、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願のいずれも出願公告すらなされていない時点で、かつ、被告はそれまでに原告から購入した二台のいなり寿司成形機のうち一台を他に販売しただけであり(乙一八)、自ら本件発明・考案を実施したにぎり舎利玉成形機やいなり寿司成形機を製造した場合にどの程度販売できるかの見通しもつかない段階でなされたものであり、しかも、一般に、特許ないし実用新案登録を受ける権利の価額を算定するにあたっては後記2(二)に記載の如き諸事情を総合考慮する必要があるのであって、不動産等一般に市場価格の算定が比較的容易な財産と比較すると、価額算定は極めて困難であるうえ、特に本件発明・考案の場合、その権利を必要とする者も限られていて換価処分できる可能性が乏しいものである(換価処分が可能であるとすれば、原告は、倒産時は勿論それ以降においても、被告ないし鈴木の同意を得て本件特許・実用新案登録を受ける権利の残りの二分の一を換価処分できたはずであるが、そのようなこともなされていない〔弁論の全趣旨〕。)ことを考慮すると、前記合意が、清算金を支払う旨の合意を含む趣旨であったとは認め難く、むしろ、右合意に至る経緯に照して考えると、被告の危惧したとおり原告が倒産した場合には、昭和六〇年一月中旬頃の時点において成立し又は成立することが予想された被告の原告に対する二五六〇万円(本件代理店契約に基づく貸金債権〔無利息〕六〇〇万円、昭和六〇年一月二〇日満期の融通手形交付による貸金債権、昭和六〇年三月二五日満期の融通手形交付による貸金債権、海苔三角袋製造機二台製造請負代金債権一三六〇万円の合計)ないし二八〇〇万円の債権(昭和六〇年三月三一日満期の額面二四〇万円の融通手形に関しては、手形債務支払資金の支払のためにバース工業株式会社及び精工商事株式会社振出の約束手形の交付を受けていたから、その支払がない分についてはこれが加算されることになる。)及びその遅延利息の支払に代えて、清算義務を伴うことなく、確定的に譲渡する(代物弁済する)旨の合意と認めるのが相当であり、しかも、右債権の額と各権利の価額とが合理的均衡を欠くなど右合意を不当とすべき特段の事情も認められないから、清算義務があることを前提とする原告の主張は理由がない。

2  なお、仮に被告に清算義務があるとしても、次のとおり被告が支払義務を負担する清算金はないというべきである。

(一) 昭和六二年七月一五日当時の被告の原告に対する債権

被告が原告に交付した前記一1記載の各約束手形のうち、額面金額三〇〇万円の約束手形四通はいずれも満期に全額(計一二〇〇万円)支払われた(昭和五九年一一月二〇日及び同年一二月二〇日満期の二通の約束手形については前記一1(一)、昭和六一年一月二〇満期の約束手形一通については甲一五の2、昭和六〇年三月二五日満期の額面金額三〇〇万円の約束手形一通については甲二一、証人青山、原告代表者)ので、計一二〇〇万円の貸金債権が成立した。被告は、更に、昭和六〇年三月三一日満期の額面金額二四〇万円の約束手形一通についても、満期に全額支払った(甲二一、証人青山、原告代表者)が、原告が被告に手形債務支払資金の支払のために交付した精工商事株式会社振出の額面金額一〇〇万円の約束手形は満期(昭和六〇年三月五日)に全額支払われた(乙一八)ものの、バース工業株式会社振出の額面金額一四〇万円の約束手形については、同社が昭和六〇年二月に倒産したため、支払われず、被告が同年三月頃に割引先の金融機関から買戻し(甲一五の2、原告代表者)、そのため、結局、原告は差額の一四〇万円について貸金返還債務を負うこととなった。

被告は、昭和六〇年三月までに海苔三角袋製造機の一号機を製造して、同月一七日、原告の指示により株式会社武蔵野フーズに納入して、同月二九日には調整も終え、同年四月か五月頃に、同二号機本体の枠組みと部品一式を原告に引き渡した(乙二一~二三、証人青山)。原告は、被告に対し、昭和六〇年頃、海苔三角袋製造機二台の追加製作部分の代金として三九五万円を支払うことを約し、その支払のために、額面金額三九五万円の約束手形を振出して被告に交付した(甲一五の2、二一、乙一八、弁論の全趣旨)。

原告は、右一号機の請負契約について、履行不能を理由とする法定解除の主張、二号機の請負契約について、被告がこれを屋外に放置したことを理由とする合意解除の主張をし、株式会社武蔵野(株式会社武蔵野フーズが平成四年四月一日商号変更)施設部長代理の杉原勝美作成の陳述書(甲二九)によれば、一号機は、原告が株式会社武蔵野フーズに約した毎時一八〇〇個の処理能力を発揮するに至らなかったことが認められる(甲二九)が、原告と被告との間の契約において、毎時一八〇〇個の能力を発揮する機械を被告の責任で製作する旨の合意があったことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、原告代表者が、海苔三角袋製造機二台の製造代金債務の支払のために振出し交付した二通の約束手形について、その満期日である昭和六〇年四月一五日及び同年五月一五日のそれぞれ数日前に書替手形を振出して被告に交付したのを初めとして、その書替手形や右追加工事分の約束手形の満期が近づくたびに新たに書替手形を振出して被告に交付している事実(甲二一〔手形一覧表〕、なお、原告代表者は二号機の分については、手形書替の際に返還を求めており、甲二一作成の際にも、本来なら返してもらわなければならないと言っている旨供述するが、右供述を裏付ける証拠は全くなく、採用できない。)並びに右追加製作部分についての約束手形の振出時期は明らかでないが、原告代表者は陳述書に昭和六〇年一〇月頃である旨の記載をしていること(甲一五の2)に照らすと、毎時一八〇〇個の能力を発揮できなかったことは、原告の設計の不備に起因するものであって、被告の責めに帰すべき事情によるものではなく、被告は請負契約で定められた仕事は完成したと認められ、二号機についても、原告の都合によって、契約どおりの金額を支払うことを約したうえで完成前に引渡を受けたものと認められる。被告がイ号物件及びロ号物件を製造販売した事情は前記のとおりであるから、六〇〇万円の貸金債権が違約罰として消滅したと認める余地はない。

右事実に証拠(甲二〇~二六、乙一八、証人青山、原告代表者)を総合すると、昭和六二年七月一五日当時の被告の原告に対する債権の額は、少なくとも次の金額を下回らないと認められる

(1) 本件代理店契約に基づく貸金債権(無利息) 六〇〇万円

(2) 融通手形交付による貸金債権 三三二万円(三〇〇万円に手形書替の都度合意した利息を昭和六一年一〇月二五日分まで付加した額)

(3) 融通手形交付による貸金債権 二四〇万円(三〇〇万円に手形書替の都度合意した利息を昭和六一年四月三〇日分まで付加し、一部弁済等した一〇〇万五〇〇〇円を控除し、更に同年八月二五日までの利息を付加した額)

(4) 融通手形交付による貸金債権 一四六万八〇〇〇円(一四〇万円に手形書替の都度合意した利息を昭和六一年三月二〇日分まで付加した額)

(5) 海苔三角袋製造機一台分の製造請負代金債権 七三一万円(六八〇万円に手形書替の都度合意した利息を昭和六一年三月三一日分まで付加した額)

(6) 海苔三角袋製造機一台分の製造請負代金債権 七三七万六〇〇〇円 (六八〇万円に手形書替の都度合意した利息を昭和六一年三月三一日分まで付加した額)

(7) 海苔三角袋製造機の追加製作部分の代金債権 四一三万六〇〇〇円(三九五万円に手形書替の都度合意した利息を昭和六一年四月三〇日分まで付加した額)

(8) 合計 三二〇一万円

(二) 本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分の価額

原告は、昭和六二年七月一五日以降、一三年間にわたり、イ号物件を年間五〇台販売できることが見込まれ、一台当たりの販売価格は一二五万円であって、本件発明・考案の相当実施料率は二〇パーセントが相当であるとして、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分の適正評価額は六一三八万一八七五円である旨主張する。しかしながら、特許権者や実用新案権者は、業として特許発明ないし登録実用新案の実施をする権利を専有する(特許法六八条、実用新案法一六条)から、本件特許・実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分の価額の算定にあたっては、他者の実施を禁止し、自らが実施できることによる利益を基準とするが、特許権ないし実用新案権設定登録に至る可能性の程度や、無効審決がなされそれが確定する可能性の有無程度の外、技術の進歩が著しい今日、新技術の出現により本件発明・考案が陳腐化し減価する可能性(現に、本件発明・考案の実施品であるロ号物件は、新種機械の出現により販売できる可能性がなくなり〔原告代表者〕、昭和六二年以降の販売実績はない。)、顧客市場の大小等も考慮することが必要であると考えられるところ、従前の販売数量は、イ号物件が昭和六〇年四月から昭和六二年七月一五日までの間で五五台、ロ号物件が昭和六一年五月頃から昭和六二年七月までの間で三台程度であって、その実施品は特殊な機械であって、顧客市場も限定されているうえ、競合する物件が次第に市場に出現する可能性もあるので、昭和六二年七月の時点において原告主張の如く多数の販売を見込めたとは認め難く、実際に被告はイ号物件を、昭和六二年八月から同年一二月までに一〇台、昭和六三年は一五台、平成元年(昭和六四年)は一五台、平成二年は一二台、平成三年は一〇台製造販売した(弁論の全趣旨)が、それ以上に製造販売した事実を認めるに足りる証拠はなく、昭和六二年八月以降ロ号物件を製造販売した事実を認めるに足りる証拠もない。また、昭和六二年七月以降に競合する物件が市場に出現すること等により、利益率が低下する可能性もあり、本件発明・考案の相当実施料率は原告主張の二〇パーセントを著しく下回ることは明らかである。なお、被告は、昭和六〇年四月から昭和六二年七月一五日までの間、イ号物件を五五台製造販売し、一台当たり二〇万円、計一一〇〇万円の利益を得、昭和六一年五月頃から昭和六二年七月までの間、ロ号物件を五台製造し、うち三台を販売して、一台当たり七六万円(販売価格三八〇万円×利益率二〇パーセント)、計二二八万円、合計一三二八万円の利益を得たことは争いがないが(それ以上の利益を得たことを認めるに足りる証拠はない)、右利益が本件発明・考案を実施できたことのみで得られたものでないことは明らかであり、その大半は被告の技術力、営業努力、資本力等に負うところと認められる(甲八、乙一八、証人青山)。更に、本件特許・実用新案登録を受ける権利が原告主張の如く高額の財産価値を有するのであれば、原告は、倒産時は勿論それ以降においても、被告ないし鈴木の同意を得て、各権利の残りの二分の一を担保に供するかこれを換価処分するかして高額の資金を入手することも可能であったはずであるが、そのようなこともなされていない(弁論の全趣旨)。加えて、原告は、本件発明・考案についての特許ないし実用新案登録出願の前である、昭和五八年四月八日から同月一〇日まで開催された日本惣菜産業展において、本件発明・考案を実施したいなり寿司成形機を出展し、他の食品機械製造業者やいなり寿司製造業者が本件発明・考案に関する機構を認識できる状態で展示したと認められる可能性が大きい(乙一六、一九、証人青山、原告本人)から、昭和六二年七月一五日当時においては、本件発明・考案はいずれも出願前に公然知られた発明ないし考案にあたるものとして、特許権ないし実用新案権設定登録に至らない可能性や、登録されても無効審決がなされそれが確定する可能性を内包していたものといえる。

以上を総合考慮すると、昭和六二年七月一五日当時における、本件発明・考案について特許ないし実用新案登録を受ける権利の各二分の一の共有持分の適正な評価額が、右被告の原告に対する債権三二〇一万円を超えると認めることはできない。

結局、被告が支払うべき清算金はないというべきである。

三  以上のとおりであり、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 辻川靖夫)

物件目録一

一 名称

にぎり舎利玉成形機

二 構造上の特徴

別紙図面(但し、破線で囲んだ部分)に示すとおり、

1 下方に向かって狭となるように傾斜するテーパ面(a、b)を有し、かっ上端部に投入口(c)を下端部に送出口(d)を有する一対の送りプレート(a、b)と右送出口の下方にあって、水平方向に開閉するカッター(e、f)とを有する。

2 右一対の送りプレートは、互いに反対方向に左右移動し、かつ右一対の送りプレートが互いに最も接近した位置では下方に、最も離反した位置では上方向にそれぞれ移動する。

3 右カッターは、右一対の送りプレートの最下位置において閉じ、最上位置において開く。

4 右一対の送りプレートが開いたとき両送りプレート間の飯の先端部が右カッター上で受支されるよう構成される。

5 飯を載せる底板と該底板の両側に配備した一対の側板との間に米飯の移行路(g)を形成している。

6 側板間に跨って複数の送り軸(h)を回転自由に配備している。

7 各送り軸には、側板間にて、複数本の送り羽根(i)を突設している。

8 各送り軸の一端にスプロケット(j)を取り付けて、各スプロケットは下部が周回チェーンの上部移行帯に噛合している。

9 両側板は下側板(k)に対して上側板(l)を取り外し可能に配備して形成されている。

10 上側板の下縁と下側板の上縁との間に開設した切欠きに複数の送り軸が回転自由に支持されている。

<省略>

物件目録二

一 名称

いなり寿司成形機

二 構造上の特徴

別紙図面に示すとおり、

1 別紙物件目録一記載のにぎり舎利玉成形機(m)を揚げ皮搬送装置(n)の上部に設置する。

2 循環して移動する移動体と、内面には飯を入れ、外面には揚げ皮を被せるための複数の容器(o、p、q)とを有する。

3 右各容器は、前記移動体の移動方向に対して垂直方向に突設された支持軸によって垂直面内で、一八〇度回転可能に右移動体に取り付けられる。

4 右各容器を一八〇度回転させるための反転装置を右移動体の二ヵ所に設置し、前記反転装置は、上記反転位置において右各容器の支持軸の端部に係合するとこれに同期して反転軸を一八〇度回転駆動される。

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭61-36893

<51>Int.Cl.4A 23 L 1/10 識別記号 庁内整理番号 6760-4B <24><44>公告 昭和61年(1986)8月21日

発明の数 1

<54>発明の名称 稲荷寿司の揚げ皮搬送装置

<21>特願 昭58-85617 <65>公開 昭59-210858

<22>出願 昭58(1983)5月16日 <43>昭59(1984)11月29日

<72>発明者 植村肇 伊丹市西野7丁目91番地 新大蔵エンジニアリング株式会社内

<71>出願人 新大蔵エンデニヤリング株式会社 伊丹市西野7丁目91番地

<71>出願人 鈴木充 寝屋川市八幡台11-29

<74>代理人 弁理士 溝脇忠司 外1名

審査官 石井貞次

<57>特許請求の範囲

1 循環して移動する移動体と、内面には飯を入れ外面には揚げ皮を被せるための複数の容器とを有し、これら各容器は前記移動体の移動方向に対して直角方向に突設された支持軸によつて垂直面内で少なくとも180度回転可能に前記移動体に取付けられると共に、これらの容器を180度回転させるための反転装置を移動体の移動方向における2箇所の位置に設け、前記反転装置は、上記反転位置において上記容器の支持軸の端部に係合する反転軸と、支持軸が反転軸に係合するとこれに同期して反転軸を180度回転駆動せしめるための駆動手段と、からなる稲荷寿司の揚げ皮搬送装置。

2 前記移動体は、垂直面内で循環するチエーン状体である特許請求の範囲第1項記載の稲荷寿司の揚げ皮搬送装置。

3 前記移動体は、水平面内で回転するターンテーブルである特許請求の範囲第1項記載の稲荷寿司の揚げ皮搬送装置。

発明の詳細な説明

(発明の対象、産業上の利用分野)

本発明は、稲荷寿司の揚げ皮を搬送する搬送装置に関し、稲荷寿司を機械によつて自動成形する際の各工程ステーシヨン間のトラバーサとして利用できる。

(従来技術)

稲荷寿司は、料理人が揚げ皮を拡げてその中へ寿司飯を詰めるという手づくりにより作られているのが通常である。ところが近年では、稲荷寿司がパツク詰めなどによつて大量販売されるようになつてきたため大量生産の必要が生じ、これによつて手づくりによる能率の惡さと料理人の人手不足とが問題となつている。

本発明の発明者は、上述の問題を解消するために、稲荷寿司の自動成形装置(特願昭57-49479号)を先に提案した。この先に提案した装置の概略を説明すると、第9図A乃至Eに示すように、側面が逆三角形状で底が開閉可能な容器1を水洗し(第9図A)、容器1の内面に寿司飯をRを入れ(第9図B)、押え具2を拡げ、容器1の外面に揚げ皮Fを下から被せ(第9図C)、押え具2を閉じ(第9図D)、押し出し具3によつて容器1内の寿司飯Rを揚げ皮Fの内部へ詰めこみ、同時にこれらを下方へ強制的に落下送出する(第9図E)。容器1は、複数個が図示しないターンテーブル上に第9図示方向に固定され、各工程ステーシヨン間をトラバースし、上述のサイクルを繰返すように構成されている。上述の各工程の中で、容器1の外面に揚げ皮Fを被せる作業は人手で行つており、それ以外の作業は全て自動的に行われるようになつている。上述の装置においては、ほとんどの工程が自動化されているものの、容器1の下方から揚げ皮Fを被せる作業が非常にやり辛いとともに、被せた揚げ皮Fが滑り落ちないようにするため、押え具2が自動的に閉じられるまで揚げ皮Fを手で押さえておかなければならないという難点を有している。この難点を少しでも解消するために、押え具2を手動で操作するためのレバーが上述装置に設けられている。しかしいずれにしても、揚げ皮Fを被せる作業の作業性が悪く、この部分が上述装置のネツクとなつていた.

(発明の目的)

本発明は、上述の難点を解消するために成されたもので、揚げ皮を容器の上方から被せることを可能にして作業性を飛躍的に向上させ、しかも容器内への寿司飯の投入は従来どおり上方から行えるような揚げ皮搬送装置を提供することを目的としている。

(発明の構成)

本発明は、循環して移動する移動体と、内面には飯を入れ外面には揚げ皮を被せるための復数の容器とを有し、これら各容器を垂直面内で少なくとも180度回転可能に前記移動体に取付けるとともに、これらの容器を180度回転させるための反転装置を搬送装置の2箇所に設けてなる稲荷寿司の揚げ皮搬送装置である。

(実施例)

第1図及び第2図は本発明に係る搬送装置を用いた稲荷寿司の自動成形装置の一実施例を示すもので、大別すると、搬送装置4、飯送り装置5、飯供給装置6、押し出し装置7、揚げ皮折りたたみ装置8、包装装置9、搬出装置10及び操作盤11とから成つている。この自動成形装置における搬送装置4の果たすべき役割りを簡単に説明すると、内面には寿司飯を入れ外面には揚げ皮を被せるための複数の容器26、26……を、垂直面内で回転して循環するチエーンによつてピツチ送りを行い、人手により揚げ皮を被せた容器26、26……を飯供給装置6の設けられた飯投入工程ステーシヨン及び押し出し装置7の設けられた押し出し工程ステーシヨンに順次搬送することにある。搬送装置4には、その2箇所に後述する反転装置36が設けられており、容器26を反転させることによつて人手による揚げ皮の被せ作業及び他のステーシヨンでの作業を容易なものとしている。

さて、本発明の一実施例である搬送装置4について詳細に説明する.

第1図及び第2図において、本体フレーム12には2個のスプロケツト13、13を一定の間隔をおいて同軸上に連結し、これらの2組をそれぞれ両端に配置するとともに、これら両端に配置したそれぞれ2個のスプロケツト13、13間にわたり2個のチエーン14、14をエンドレスに巻き掛けて公知のチエーンコンベアを形成している。これらチエーン14、14には、その全周にわたつて等ピツチ毎に後述する容器26を取付けてあり、その構造を説明すると次のとおりである。第3図は後述する反転装置36を取付けた位置で断面した搬送装置4の要部の断面側面図であつて、チエーン14、14には等ピツチ毎にそれぞれ内方へ水平に突出する取付け片15、15を設けてあり、両取付け片15、15間に軸受ブロツク16をボルト17、17により取付けている。軸受ブロツク16にはその移動方向に対して直角方向でかつ水平方向の軸孔18を設け、軸孔18の両端部に嵌入した軸受け19、19を介して支持軸20を回転可能に挿通してある。

第4図をも参照して、支持軸20の一端には直径方向の凹溝20aを設け、この凹溝20aに嵌入する係合片21を筒状体22の一端面の内外にわたつて溶接により固着してなる係合キヤツプ23を、支持軸20の一端部に外嵌してある。そしてセツトねじ24等によつて支持軸20と係合キヤツプ23との抜け防止を行つており、この係合キヤツプ23と支持軸20に取付けたスナツプリング25とによつて、支持軸20の軸方向移動を防止している。

支持軸20の他端には、容器26が取付けてあり、支持軸20の回転によつて容器26は垂直面内で回転し、その受口部26aと底26bとが反転可能になつている。これを詳細に説明すると、第6図及び第7図をも参照にして、断面略コ字状の枠板27の中央部に設けた長方形孔の周縁には、軟質板ばね材からなる4個の側壁26c、26c、26d、26dを底26bに向かつて閉じるような状態に形成、配置し、その受口部26aを溶接などにより固定して容器26を形成している。枠板27の両側板部27a、27a間にわたつて2個の押え軸28a、28bを回転可能に軸架し、押え軸28a、28bには、その一端に抜け止め用のスナツプリング29、29を、他端に本体フレーム12に固定的に取付けた後述するガイドレール33に当接して回動かつ摺動する長短2種類の回動カバー30b、30aを、中央部に容器26に被せた揚げ皮を側壁26c、26cとの間で挟んで押えるための押え爪31a、31a、31b、31bをそれぞれ固定してあり、またそれぞれ一方向の押え爪31a、31aと枠板27との間に、押え軸28a、28bを回動し押え爪31a、31bを閉じる方向に付勢するための押えばね32、32張架してある。27b、27bは、枠板27の受口部26a側から棒を挿入し、押え爪31a、31bを強制的に開状態にするための穴である。

ガイドレール33は、押え軸28a、28bと一定の間隔を有し、第1図に示すように反転装置36のある位置よりも右側の部分に配設されている。ガイドレール33の始端部33a近辺には、押え軸28a、28bを相挟むような位置に短い補助レール34が取付けられており、それぞれの始端部33a、34bは滑らかに傾斜している。これらガイドレール33及び補助レール34に乗りかかつたばかりの回動レバー30a、30bの動きを説明すると、第8図において、容器26の進行する矢印A1方向に関し、前方の回動レバー30aはガイドレール33の始端部33aに当接して矢印A2方向に約90度回動し、後方の回動レバー30bは補助レール34の始端部34aに当接して矢印A3方向に約90度回動し、その後いずれの回動レバー30a、30bもガイドレール33に沿つて摺動し、押え爪31a、31bを開状態に保持することとなる。

第3図及び第4図において、容器26の姿勢は、支持軸20の一端に取付けられた係合片21が容器26の進行方向と平行状態において、係合片21と若干の間隔を有して本体フレーム12に固定されているガイドバー35によつて係合片21の回転が規制され、受口部26a又は底26bが上方を向くようになつている。ガイドバー35は、第2図に示すように係合片21、21……に沿つた全周に設けられており、反転装置36の設けられた2箇所において分断されている。係合片21が挿入通過可能な溝37aを有するコ字状の係合部材37をその一端に取付けた反転軸38を、本体フレーム12に固定的に取付けたブラケツト軸受39、39に回転可能に取付けている。

反転装置36、36は、第1図の左右方向の同一箇所に上下に2箇所設けてあり、それぞれの反転軸38、38の一端に取付けたスプロケツト40、40間にチエーン41をエンドレスに巻き掛け、これによつて互に同期して回転するようにしている。これらの反転軸38、38を回転させるためには、例えば下方の反転軸38に取付けたスプロケツト42を、第5図に示すように、コンベア用のスプロケツト13等の動作に関連したタイミングで回転駆動するカム43aに当接し摺動するレバー43bの先端と本体フレーム12に一端を固定したばね43cとの間に張つたチエーン43dにより、180度毎の回動駆動を行うようにすればよい。なお、第3図中、14aはチエーン14のガイド、36aは反転軸38の軸方向移動防止用のストツパーである。

搬送装置4は、図示しない単一の回転駆動源の駆動力により、スプロケツト、チエーン、カム又はレバー等の公知の伝動手段を介して作動するように構成されており、各作動部分の作動に関する構成について次に説明する。

スプロケツト13、13……は、一定角度毎の間欠回転を行い、チエーン14、14を介して容器26、26……を1ピツチつつピツチ送りする。反転装置36、36は、容器26、26……が停止している際に作動し、係合部片37と係合する位置にある容器26を反転させる。したがつて第1図に示すように、上方の容器26、26……は、反転装置36、36を設けた位置を境界にして、その右方では底26bが、その左方では受口部26aが、それぞれ上方に向くようになつている。揚げ皮を押えるための押え爪31a、31bは、ガイドレール33を設けた位置では開状態になつており、したがつて上方の容器26のうち底26bを上に向けた容器26は押え爪31a、31bが開状態で、上方の反転装置36を設けた位置で閉状態となる。

次に自動成形装置全体の構成も含めて説明すると、容器26のピツチ送りの停止中に、飯供給装置6がその位置にある容器26内に、その受口部26aから適量の寿司飯を投入し、押し出し装置7がその位置にある容器26内に押し出し具を挿入して容器26内の寿司飯を揚げ皮の内部へ詰めこむと同時に、これらを下方の受皿8aへ強制的に落下送出する(第9図E参照)。受皿8aの内に落下した稲荷寿司は、揚げ皮折りたたみ装置8によつて、揚げ皮の上部をその内部の寿司飯を覆うように折りたたまれ、水平面内で180度回転した位置で強制的に落下させられて包装装置9内に送られる。包装装置9は、一定長さのシート状体によつて稲荷寿司を巻くようにして包装し、シート状体の両端部をヒートシーラ9aによつて熱溶着シールする。包装された稲荷寿司は、搬送装置10によつて搬出され、箱詰め等がなされる。飯送り装置5は、ホツパー5aに投入した寿司飯をほぐしながら飯供給装置6へ搬送するものである。操作盤11は、上述の駆動源モータのオン・オフのためのスイツチ、飯送り装置5の速度調整用のツマミ及びパイロツトランプ等を備え、自動成形装置全体を制御するためのものである。

上述のように構成した搬送装置4は、稲荷寿司を自動成形するのに必要な容器26を各工程ステーシヨンへ順次搬送することができる。容器26は、その内面に飯を入れ、外面に揚げ皮を被せるように構成されているため、稲荷寿司成形の自動化を行いやすい。これらの容器26を垂直面内で回転可能にチエーン14に取付け、180度反転させる反転装置36を2箇所に設け、各作業工程に合わせて受口部26aと底26bとを反転させることとしているので、人手による揚げ皮を被せる作業と寿司飯の投入及び押し出し工程作業とがいずれも上方から行えることとなり、人手による揚げ皮の被せ作業の能率が飛躍的に向上するとともに、他の工程作業の自動化のための飯供給装置6及び押し出し装置7等が簡単な構造となる。上方の容器26のうち、底26bを上に向けた容器26を多数配置しているので、揚げ皮を被せる作業を連続して一度に多数行えて能率が良く、またこれらはストツクコンベアとしての役をも果たすので、揚げ皮を被せた容器26の全部が次工程へ送られる間の時間は、作業者が他の作業を行うことができ、一層能率が向上する。

また、揚げ皮を押えるための押え爪31a、31bを設けたので、反転装置36により反転して揚げ皮が容器26の下方に位置した場合も揚げ皮が不測に落下するおそれがない。回動レバー30a、30bとガイドレール33及び補助レール34とを設けたので、押え爪31a、31bがあるにもかかわらずこの押え爪31a、31bを自動的に開状態にできて揚げ皮を被せる作業の障害とはならず、揚げ皮を被せた容器26が反転する直前に押え爪31a、31bが自動的に閉状態となるから人手によるわずらわしい作業を要しない。

本実施例においては、揚げ皮が落下しないように押え爪31a、31bを設けたが、これに代えて容器26の外面に引つ掛り用の突起を設けてもよく、容器又は揚げ皮の形状、材質によつては不測の落下が起こらない場合も考えられる。容器26は支持軸20によつて回転可能に支持しているが、この支持軸20を容器の両側に設けてもよく、また容器26は支持軸20を中心に言わば自転を行うように構成したが、例えば一端を中心に回動するアームの他端に容器26を取付けて、容器が言わば公転するようにしてもよい。上述した反転装置36は一例であつて、他に種々の構造のものとすることができ、その個数及び設ける位置は他の工程装置に合わせて最も適したものとすることができる。

本実施例においては、移動体としてチエーン14を用いたが、これに代えてベルト又はキヤタピラ状のものでよく、さらには水平面内で回転するターンテーブルでもよい。また第9図Aで説明したような容器の洗浄装置を適宜設けてもよい。

なお本発明においては、稲荷寿司とは稲荷寿司様のものを含み、これには飯に代えて例えば魚のすり身、もちまたはシユーマイの原料等を用いたものが含まれる。

(発明の効果)

本発明によれば、内面に飯を入れた外面に揚げ皮を被せるための複数の容器が循環移動するので、稲荷寿司成形の自動化を行い易い。これらの容器が反転するので、揚げ皮を容器の上方から被せることができて作業性が飛躍的に向上し、しかも容器内への飯の投入等の他の工程も上方から行えるので他の装置を複雑にすることがない。

図面の簡単な説明

第1図乃至第8図は本発明の実施例を示すものであつて、第1図は稲荷寿司の自動成形装置の概略を示す正面図、第2図は同平面図、第3図は搬送装置の部分的な断面図であつて容器及び反転装置等を示す図、第4図は係合キヤツプの拡大平面図、第5図は反転装置の駆動方法の一例を示す概略図、第6図は容器部分の底から見た平面図、第7図は第6図のⅦ矢視図、第8図は容器が補助レール近辺を通過する際の回動レバーの動作を説明する図、第9図は稲荷寿司の自動成形方法の一例を説明するための図である。

R……飯、F……揚げ皮、4……搬送装置(揚げ皮搬送装置)、14……チエーン(移動体)、20……支持軸、26……容器、26a……受口部、26b……底、36……反転装置、38……反転軸。

第1図

<省略>

第8図

<省略>

第3図

<省略>

第2図

<省略>

第5図

<省略>

第4図

<省略>

第6図

<省略>

第7図

<省略>

第9図

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭63-49980

<51>Int.Cl.4A 23 L 1/10 識別記号 庁内整理番号 G-8114-4B <24><44>公告 昭和63年(1988)10月6日

発明の数 1

<54>発明の名称 飯の自動供給装置

<21>特願 昭58-85619 <65>公開 昭59-210860

<22>出願 昭58(1983)5月16日 <43>昭59(1984)11月29日

<72>発明者 植村肇 兵庫県伊丹市西野7丁目91番地 新大蔵エンヂニヤリング株式会社内

<71>出願人 新大蔵エンヂニヤリング株式会社 兵庫県伊丹市西野7丁目91番地

<74>代理人 弁理士 溝脇忠司 外1名

<71>出願人 鈴木允 大阪府寝屋川市八幡台11-29

審査官 鈴木恵理子

<56>参考文献 特開 昭57-194756(JP、A)

<57>特許請求の範囲

1 下方に向かつて狭くなるように傾斜するテーパ面を有しかつ上端部に投入口を下端部に送出口を有する一対の送りプレートと、上記送出口の下方にあつて水平方向に開閉するカツターとを有し、上記一対の送りプレートは、互に反対方向に左右移動し、かつ両送りプレートが互に最も接近した位置では下方向及び最も離反した位置では上方向にそれぞれ移動し、上記カツターは、上記一対の送りプレートの最下位置において閉じ最上位置において開くようにすると共に、上記一対の送りプレートが開いたとき両送りプレート間の飯の先端部が上記カツター上で受支されるよう構成してなることを特徴とする飯の自動供給装置。

発明の詳細な説明

(発明の対象、産業上の利用分野)

本発明は、飯の自動供給装置に関し、稲荷寿司又はにぎり寿司等を自動成形する際に一定量の飯を供給するために利用される。

(従来技術)

稲荷寿司は、料理人が揚げ皮を拡げてその中へ寿司飯を詰めるという手づくりにより作られているのが通常である。ところが近年では、稲荷寿司がパツク詰めなどによつて大量販売されるようになつてきたため大量生産の必要が生ぞ、これによつて手づくりによる能率の悪さと料理人の人手不足とが問題となつている。

本発明の発明者は、上述の問題を解消するために、稲荷寿司の自動成形装置(特願昭57-49479号)を先に提案した。この先に提案した装置の概略を説明すると、第6図A乃至Eに示すように、側面が逆三角形状で底が開閉可能な容器1を水洗し(第6図A)、容器1の内面に寿司飯Rを入れ(第6図B)、押え具2を拡げ、容器1の外面に揚げ皮Fを下から被せ(第6図C)、押え具2を閉じ(第6図D)、押え出し具3によつて容器1内の寿司飯Rを揚げ皮Fの内部へ詰めこみ、同時にこれらを下方へ強制的に落下送出する(第6図E)。容器1は、複数個が図示しないターンテーブル上に第6図示方向に固定され、各工程ステーシヨン間をトラバースし、上述のサイクルを繰返すように構成されている。また、本発明の発明者は上述の装置をさらに改良した装置をも提案している。

上述の稲荷寿司の自動成形過程における容器1内への寿司飯Rの投入に際しては、充分にほぐされた寿司飯の一定量を、ある程度押し固めて一定の形にし握つたような状態で投入することが好ましい。従来においては、このような条件を満たす飯の自動供給装置はなかつた。

(発明の目的)

本発明は、一定量の飯をある程度押し固めて一定の形にして自動的に供給することのできる構造簡単で安価な飯の自動供給装置を提供することを目的とする。

(発明の構成)

本発明は、下方に向かつて狭くなるように傾斜するテーパ面を有しかつ上端部に投入口を下端部に送出口を有する一対の送りプレートと、上記送出口の下方にあつて水平方向に開閉するカツターとを有し、上記一対の送りプレートは、互に反対方向に左右移動し、かつ両送りプレートが互に最も接近した位置では下方向及び最も離反した位置では上方向にそれぞれ移動し、上記カツターは、上記一対の送りプレートの最下位置において閉じ最上位置において開くように構成してなることを特徴とするものである。

(実施例)

第1図乃至第3図において、前端部にそれぞれ長孔4a、4aが設けられた2個の側板4、4が互に平行にかつ垂直状態に配置され、これらの間には横板5、5が取付けられている。平面視略H字状の台板6の前方側の両側壁部6a、6aには、互に平行な2個のローラ軸7、7が貫通し、ローラ軸7、7のそれぞれ両端部にはローラ8、8……が回転可能に取付けられてこれらのローラ8、8……が前記に長孔4a、4a内に転動可能に嵌入している。ローラ軸7、7の両端には、抜け止め用のストツパー部材9、9……が、また台板6の後方側の両側壁6b、6b間には、丸棒10が貫通して取付けられている。両側板4、4間に軸架されれた支軸11によつて中央部が回転自在に軸支されたレバー12は、その一端に長溝12aが設けられて上述の丸棒10に外嵌して係合し、他端にはレバーの長手方向を軸として回転自在のローラ12bが取付けられている。また、レバー12は、両側板4、4間に取付けた支持棒13との間に張架された引張ばね13aによつて第2図の右回転方向に付勢されている。なお12cは支軸11と摺動回転するブシユ、11aは位置決め用の止めリングである。

一方、ローラ軸7、7には、両ローラ軸7、7に外嵌してローラ軸7の方向に摺動可能な2個の摺動ベース14、15が設けられており、正面視長方形状の摺動枠16、17がそれぞれ摺動ベースー14、15の互に対称位置に取付けられている。摺動ベース14、15のそれぞれ前面の端部には、後述する送りプレート22、23を取付けるための取付け部材14a、15aが設けられている。

また、両横板5、5の中央部を貫通し、これら両横板によつて回転可能に軸支された回転駆動する駆動軸18の先端部には、同一形状の2個のカム板19、20がそれぞれ摺動枠16、17の内側面に当接して摺動する位置において、互に180度の回転角度差を有して取付けられている。カム板19、20は、その周面部の中心角約90度の範囲が他の周面部より一定寸法だけ突出した形状で、これらカム板19、20の回転によつて摺動枠15、16は、ローラ軸7、7に沿つて互に反対方向に左右に揺動運動を行う。また台板6の中央部には、駆動軸18が貫通するための長穴6cが切欠かれている。駆動軸18には、前述のローラ12bに当接するカム板21が取付けられており、カム板21の回転によつてレバー12は支軸11を中心として回動運動を行い、これによつて丸棒10を介して台板6及びローラ軸7が長孔4a、4aに沿つて上下方向に揺動運動を行う。

第5図をも参照して、送りプレート22、23は、その左右及び上下運動によつて両送りプレート22、23間内の飯Rを下方へ送るためのもので、中央部には下方に向かつて狭くなるように傾斜するテーパ面22a、23aと、上部には上方に向かつて広く開口し、投入口24を形成する受部22b、23bと、下部には飯Rを押し固めて一定の側面形状に成形するための、かつ送出口25を形成する送り部22c、23cと、テーパ面22a、23aの外方の面に垂直に突設された取付け部2d、23dとを有している。両送りプレート22、23は、取付け部22d、23dによつて前述の取付け部材14a、15aにボルトにより位置調整可能に取付けられている。

送出口25の下方には、L字状の形状を呈し、互に反対方向かつ水平方向に移動して開閉する2個のカツター部材26、27からなるカツター28が設けられている。カツター28は、例えば第4図に示すように、支軸29、29を中心に回動可能なアーム30、30の先端にボルトにより位置調整可能に取付けられ、両アーム30、30間は引張ばね31によつて互に接近する方向に付勢されるとともに軸32aを中心に回転駆動するカム板32によつて開閉するように構成される。また、一方のカツター部材26は、水平面の先端部が若干下方へ傾斜している。送りプレート22、23の前後位置には、送りプレート22、23間内の飯Rがこぼれないようにするための後カバー33と前カバー34とが設けられている。前カバー34は、透明樹脂等を用いて取外し可能にしておくと保守点検に都合が良い。

さて、上述構造の装置は、駆動軸18及び軸32aを回転させることによつて送りプレート22、23及びカツター28が作動するが、これらの動作タイミングの構成について第5図A乃至Gを参照して説明する。

第5図Aは、送りプレート22、23が互に最も接近しかつ最下位置、カツター28が閉じた状態を示し、両送りプレート22、23間中には飯Rが満たされている。この状態からは、まず送りプレート22、23が互に反対方向に左右に移動し、最も離反した位置になる(第5図B)。次に送りプレート22、23が上方へ移動し、最上位置に至る(第5図C)。この間、飯Rはほぼ初期の形状を維持して静止している。次に送りプレート22、23が互に反対方向は左右に移動して最も接近した位置になり、このとき飯Rは両送りプレート22、23によつて押し固められる(第5図D)。カツター28が開く(第5図E)。送りプレート22、23が飯Rとともに下方へ移動し、最下位置に至る(第5図F)。カツター28が閉じ、送出口25より下方へはみ出している飯Rがカツター28により切り離されて落下し、下方に設けられた容器(図示せず)等に供給することとなる(第5図G)。それ以降は、第5図Bから第5図Gの工程をくり返すように構成されている。

以上説明したように、本実施例によると、駆動軸18及び軸32aの回転によつて送りプレート22、23及びカツター28を上述の動作タイミングで動作させることができ、これら駆動軸18と軸32aとの間をスプロケツト、チエーン等の適当な動力伝達機構によつて連結しておくと単一の回転駆動源のみで全てを作動させることができる。この装置以外の装置、例えば供給した飯Rを受け取るための容器の搬送装置等と連動させる際にも、同様に単一の駆動源によつて作動させることができ、動作タイミングを容易に同調させることができる。また、カム板19、20、21、32の形状を種々変形することによつて、送りプレート22、23及びカツター28の動作タイミング及び移動速度を適宜選択することができる。

本実施例によると、両送りプレート22、23がテーパ面22a、23aを有しているため、これらが互に接近する方向へ移動する際に飯Rをある程度押し固めることとなり、送り部22c、23cによつてほぼ直方体形状の握つたような状態にすることができる。また、カツター28は、送出口25より下方へはみ出した飯Rを切り離して落下させるとともに、その閉じている状態においては、送りプレート22、23が動作している間に飯Rが下方へ移動しないようにストツパーの役をも果たしている。

上述の実施例における各部に構造は本発明の一例であつて上述実施例に限定されることなく種々の構造とすることが可能である。例えば2個のカム板19、20を一体的に成形してもよいし、カム板を用いずに油空圧シリンダ又はソレノイド等を駆動源として用いるように構成することも可能である。また投入口24の付近に飯Rが満杯か否かを検出するための検出器を設けておき、その信号によつて投入口24への飯Rの補充投入を制御するようにすると都合が良い。

(作用)

本発明によれば、第5図に示すように一対の送りプレート22、23が互に接近、飯Rが所要形状に押し固められると、送りプレート22、23が開き、飯Rの先端部がカツター28上で受支され飯Rがその位置で停止したまま、一対の送りプレート22、23のみが同図Cに示すように上動し、しかる後同図Dに示すように両プレート22、23は再び互に接近して飯Rの上方を押し固め、この状態で同図Eに示すように両プレート22、23は押し固められた飯Rと共に一定ストローク下降して(同図E、F)、両プレート22、23より方にとび出している先端部Rをカツター28で切断するようになつているため、飯Rそのものはなんら一対の送りプレート22、23間を摺動して強制的に下方に送り出されるものではなく、飯Rには単に側面からの一対の送りプレート22、23による押し固め作用が負荷するだけである。したがつてまた押し固められた飯Rは一対の送りプレート22、23によつて飯Rそのものを強制送りされるのではなく、飯Rを押し固めた状態の上記プレート22、23が飯Rと共に下降することによつて飯Rが一定量宛下方に送り出されることになる。

(発明の効果)

本発明によると、一定量の飯をある程度押し固めて一定の形にして自動的に供給することのできる構造簡単で安価な飯の自動供給装置を得ることができる。したがつて、稲荷寿司の自動成形装置等における寿司飯の自動供給装置として好適である。

特に本発明によれば、前述のように一対の送りプレート間に送り込まれた飯は単にその側面から両送りプレートによる押し固め作用が負荷するだけであるから、丁度人手によつて飯をにぎり固めるような仕上がりとなり、均一に固めることができ、且つ自然の風味をかもし出すことができる。

しかも押し固められた飯は一対の送りプレートによつて定量成形物として正確に定量送りをすることができる。

図面の簡単な説明

第1図乃至第5図は本発明の実施例を示し、第1図は自動供給装置の正面図、第2図は同断面側面図、第3図は同平面図、第4図はカツターの駆動部分の一例を示す平面図、第5図は送りプレート及びカツターの動作タイミングを説明するための図、第6図は稲荷寿司に自動成形方法の一例を説明するための図である。

22、23……送りプレート、22a、23a……テーパ面、24……投入口、25……送出口、28……カツター。

第1図

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第2図

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第4図

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第6図

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第3図

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第5図

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<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平1-39199

<51>Int.Cl.4A 23 L 1/10 識別記号 庁内整理番号 G-8114-4B <24><44>公告 平成1年(1989)11月22日

<54>考案の名称 飯の自動送り装置

<21>実願 昭58-72932 <65>公開 昭59-178089

<22>出願 昭58(1983)5月16日 <43>昭59(1984)11月28日

<72>考案者 植村肇 兵庫県伊丹市西野7丁目91番地 新大蔵エンヂニヤリング株式会社内

<71>出願人 新大蔵エンヂニヤリング株式会社 兵庫県伊丹市西野7丁目91番地

<74>代理人 弁理士 溝脇忠司 外1名

<71>出願人 鈴木允 大阪府寝屋川市八幡台11-29

<74>代理人 弁理士 丸山敏之 外1名

審査官 鈴木恵理子

<56>参考文献 実開 昭48-32692(JP、U) 実開 昭48-103753(JP、U)

実開 昭58-100598(JP、U)

<57>実用新案登録請求の範囲

<1> 飯を載せる底板5と該底板の両側に配備した一対の側板60、60との間に米飯の移行路を形成し、側板間に跨がつて複数の送り軸21を回転自由に配備し、各送り軸21には側板60、60間にて、複数本の送り羽根23を突設し、各送り軸21の一端にスプロケツト22を取付けて、各スプロケツト22を垂直面内を周回するチエーン29に噛合させて構成され、両側板は下側板に対して上側板10を取外し可能に配備して形成され、上側板10の下縁と下側板の上縁との間に開設した切欠きに前記送り軸21が回転自由に支持され、各送り軸21のスプロケツト22は下部が周回チエーン29の上部移行帯29aに噛合している飯の自動送り装置。

<2> 下側板は底板の先端より更に前方へ突出し、下側板の下辺には斜め内向きにシユートを突設している実用新案登録請求の範囲第1項に記載の飯の自動送り装置。

考案の詳細な説明

(産業上の利用分野)

本考案は、米飯をほぐしながら前方へ送る自動送り装置に関する。

(従来の技術及びその問題点)

稲荷寿司やおにぎりを自動成形装置によつて大量に生産する場合、該成形装置に米飯をほぐしながら供給する米飯の自動送り装置が連接配備されている。

この自動送り装置は回転軸に送り羽根を突設し、軸の回転によつて送り羽根で米飯をほぐしながら送り出す。

米飯を扱う機器、装置に於ては、洗浄し易いことが重要であるが、従来の米飯の自動送り装置では、回転羽根が邪魔になつて、装置の隅々まで洗浄することは出来ず、不衛生となる問題があつた。

本考案は送り羽根を含む回転軸を取外し可能な構造とすることにより、洗浄し易い飯の自動送り装置を明らかにするものである。

(問題を解決する手段)

上記目的を達するために本考案の飯の自動送り装置は、飯を載せる底板5と該底板の両側に配備した一対の側板60、60との間に米飯の移行路を形成し、側板間に跨がつて複数の送り軸21を回転自由に配備し、各送り軸21には側板60、60間にて、複数本の送り羽根23を突設し、各送り軸21の一端にスプロケツト22を取付けて、各スプロケツト22を垂直面内を周回するチエーン29に噛合させて構成され、両側板は下側板に対して上側板10を取外し可能に配備して形成され、上側板10の下縁と下側板の上縁との間に開設した切欠きに前記送り軸21が回転自由に支持され、各送り軸21のスプロケツト22は下部が周回チエーン29の上部移行帯29aに噛合している。

(作用及び効果)

送り軸21は下側板6の上緑と上側板10の下縁との間の切欠きに嵌まつて支持されているため、送り軸21を側板60から取外し出来、送り羽根23を含む送り軸21は勿論のこと、送り軸21を外した下側板6及び底板5も隅々まで洗浄出来る。

送り軸21の端部に取付けたスプロケツト22は周回チエーン29の上部移行帯29aに噛合しているから、送り軸21を持ち上げるとスプロケツト22はチエーン29から外れて、送り軸21の取外しにチエーン29は邪魔にならない。

又、送り軸21を下側板6の切欠き8に嵌めるだけで、スプロケツト22はチエーンに噛合し、組立が簡便である。

(実施例)

第1図乃至第3図において、前方及び上方が開放された箱状の下枠4は、後方が円弧状にそり上がつた底板5と、底板5の両側から垂直に立ち、互いに平行でかつ底板5よりも前方へ突出した部分を有する2枚の側板60、60と、この側板60、60が底板5より突出した部分の下端から下方斜めに互いに内方向に延びるシユート部7、7とから成つている。

底板5と両側板60、60との間が米飯の移行路となつている。

両側板60、60は下側板6に対して上側板10を分離可能に構成されている。

下側板6、6は、上端辺部に後述する軸受け20を嵌入するための半円状の切欠き8が等間隔に設けられており、また底板5より外方へ突出している部分には、取付け用の穴5a、5aが設けられている。

上方及び下方が開放された枠状の上枠9は、下枠4の上端縁に重ねて載置できるような形状、寸法の上側板10、10及び奥板11と、両上側板10、10間の前端部を連結する前板12と、両上側板10、10の上端縁からそれぞれ外方へ水平状に延びるフランジ部13、13とから成つている。

上側板10、10の下端辺部には、下枠4に設けた切欠き8に対する位置に半円状の切欠き14が設けられており、またフランジ部には底板5の穴5aに対応する位置に穴13aが設けられている。

米飯を上方から投入するためのホツパー15には、フランジ部16、16が設けられており、このフランジ部16、16には前述の穴13a、13aのうち後方の2個に対応する位置に穴16a、16aが設けられている。

下枠4、上枠9及びホツパー15は、この順に下方から積み重ねられてねじ孔17a、17aを有したフレーム17上に載置されている。頭部の長さが底板5とフランジ部13との距離に等しく端部にねじ孔を有した4個のボルト18によつて、下枠4とフレーム17とが固定され、別の4個のボルト19によつて上枠9とホツパー15とフレーム17とが固定されている。

ボルト19を外すと下枠4から上枠9及びホツパー15を取外し出来る。

下枠4及び上枠9の上下側板6、10に設けた切欠き8、14には、軸受け20、20が嵌入して両側板60、10によつて挾まれて固定されており、それぞれ左右の軸受け20、20間に合計5個の送り軸21が回転可能に挿通されている。各送り軸21には、その一端部に同径のスプロケツト22が取付けられており、両側板6、10の間で、これら送り軸21に直角方向に丸棒状の送り羽根23、23が取付けられている。各送り軸21の送り羽根23は等間隔にかつ隣り合う送り羽根23が互いに45度の角度を有して取付けられており、半径方向長さはその先端が底板5と若干の間隙を有する程度である。また隣り合う送り軸21とは、軸方向交互に取付けられており、各送り軸21、21に取付けられた送り羽根の個数は手前の送り軸21から順に5個、4個、5個、4個である。

フレーム17の側面でスプロケツト22下方には、スペーサ24を介してガイド板25がボルト26により取付けられており、その後方に取付けたモータ27の軸に設けたスプロケツト28とガイド板25の周面とにわたつてチエーン29が巻き掛けられている。チエーン29の上部移行帯29aは、各スプロケツト22とかみ合つており、したがつてモータ27が回転すると、各スプロケツト22は互いに同一方向に回転することとなる。

本実施例の自動送り装置の構造は上述のとおりであるが、実際に組立てる際には、第3図に示すように、送り軸21、送り羽根23、23、軸受け20、20及びスプロケツト22をあらかじめ組立てものを準備しておき、下枠4と上枠9との間に挾むようにして組立てればよい。このときに、送り羽根23が5個のものと4個のものとをそれぞれ色分け又は番号付けをしておくと、組立てが容易に行なえて保守に都合がよい。なお、第1図中、30は本装置から送られる米飯を設けて一定量を別の容器等に供給する装置の投入口であり、31は上枠9の上部開口部を覆うカバーである。

上述のように構成された飯の自動送り装置は、モータ27を駆動して第2図で左回転させると、スプロケツト28、チエーン29、スプロケツト20及び送り軸21を介して送り羽根23が右回転する。これによつてホツパー15の上方から投入された米飯Rは、それぞれの送り羽根23によつて適度にほぐされながら前方へ送られ、順次シユート部7から落下することとなる。送り羽根23によつてこれと接触する飯はその全体がほぐされるが、前方へ送られるのは底板5付近の米飯だけであるため、米飯は充分にほぐされる。底板5の後方が円弧状にそり上がつているので、送り羽根23の回転によつて飯をもれなく前方へ送ることができる。

本実施例においては、送り軸21を5個設けたが、これ以外の個数でもよく、また各送り軸21の、スプロケツト22とチエーン29とをかみ合わせて取付ける際に、回転方向取付け角は任意に選ぶことができる。また投入口30の近辺にレベル検出器を設け、投入口30内に飯が満杯になればモータ27を停止させるようにすると好都合である。

上記米飯の自動送り装置を洗浄するには、ボルト19を緩めて上枠9を外し、次に下側板6から上側板10を外す。これによつて送り軸21を側板60から取外し出来、送り羽根23を含む送り軸21は勿論のこと、送り軸21を外した下側板6及び底板5も隅々まで洗浄出来る。

図面の簡単な説明

第1図乃至第3図はは本考案の飯の自動送り装置の実施例であつて、第1図は一部を断面で表わした正面図、第2図は側面図、第3図は要部の分解斜面図である。

5…底板、6、10…側板、21…送り軸、23…送り羽根。

第1図

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第2図

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第3図

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特許公報

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特許公報

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実用新案公報

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